大阪地方裁判所 平成8年(行ウ)73号 判決 1998年9月29日
原告
甲野花子
右訴訟代理人弁護士
田中幹夫
同
藤原精吾
同
斉藤浩
同
尾藤廣喜
同
竹下義樹
同
井上直行
同
青木佳史
同
阪田健夫
同
永井弘二
同
板垣喜雄
同
河原林昌樹
同
石那田隆之
同
木下和茂
同
竹下育男
同
長野浩三
同
眞継寛子
同
村瀬謙一
同
河野豊
被告
大阪市城東区
福祉事務所長
八田接明
被告
大阪市
右代表者市長
磯村隆文
右両名訴訟代理人弁護士
千保一廣
同
江里口龍輔
主文
一 原告の被告大阪市城東区福祉事務所長に対する訴えを却下する。
二 原告の被告大阪市に対する請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告大阪市城東区福祉事務所長(以下「被告福祉事務所長」という。)が原告に対し、平成八年一月八日付第九九三号でしたホームヘルパー派遣決定(変更)処分を取り消す。
2 被告大阪市は、原告に対し、一五〇万円及びこれに対する平成八年四月二三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
(被告福祉事務所長)
1 本案前の答弁
主文第一、三項と同旨
2 本案の答弁
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
(被告大阪市)
主文第二、三項と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、明治四〇年九月一九日生まれの女性である。現在、住所地の市営住宅において長男甲野一郎(昭和八年六月二七日生まれ)と二人で居住している。
2 原告は、昭和六二年、当時の住所地であった大阪市旭区の福祉事務所長に対して家庭奉仕員(ホームヘルパーに対して当時大阪市が用いていた呼称)の派遣申請を行い、同年七月二〇日付で、「おおむね週二回」の家庭奉仕員派遣決定を受けた。
原告は、平成四年四月、現住所地に転居したため、被告福祉事務所長に対して家庭奉仕員の派遣申請を行い、同被告はこれに対し同年六月六日付で、「おおむね週二回」の家庭奉仕員派遣決定を行った。これによって、原告は引き続き「本人の身の回りの掃除、買物、調理」について家庭奉仕員のサービスを受けることになった。
平成四年一二月、原告は脳梗塞後遺症と診断され、一郎は平成五年一月にそれまで勤めていた会社を辞めて原告の世話をすることにした。
その後、原告は、平成五年五月一四日に左大腿骨骨折のため入院したところ、被告福祉事務所長は、同年五月一七日付で、原告の入院を理由に同日から全治して退院するまでホームヘルパーの派遣を停止する旨の通知をした。
ところが、原告が平成五年七月一二日に退院して自宅に戻ったにもかかわらず、被告福祉事務所長は、同年八月二日ころ「長男の介護が受けられるため」という理由で、ホームヘルパーの派遣を同年七月一五日から廃止する旨通知してきた。
原告は、平成五年九月二四日、被告福祉事務所長に対し、右ホームヘルパー派遣廃止決定に対する異議申立てを行ったところ、被告福祉事務所長は、同年一〇年一四日付でホームヘルパー派遣再開決定をした。派遣内容は、週二回・一回二時間で、サービス内容は「買物、掃除、調理、車椅子での散歩」という家事介護に限定されていた。
3 そこで、原告は、一郎を介して、平成五年一〇月二五日、城東区福祉事務所の村井義昌主査に対し、ヘルパーの派遣回数を増やしてほしい旨及び家事だけでなく身体介護サービスも行ってほしい旨を申し出た。しかし、村井は、これをホームヘルパーの派遣変更申請として受理せずに単なる相談扱いとし、身体介護サービスについても派遣回数の増加についてもその場で口頭で拒否した。そのため、原告に必要な介護は、その後二年余りにわたって、一郎一人で担わせることになった。
一郎は、平成六年一一月四日、城東区福祉事務所のコーディネーターの石川邦子に対し、実態調査に来てほしいと依頼したが対応はなく、清拭・足浴等のサービスを加えるように申し出ても、全く取り合おうとしなかった。
4 原告は、平成七年一一月二一日、被告福祉事務所長に対し、弁護士阪田健夫、同木下和成、同竹下育夫を代理人として、現在週二回・一回二時間派遣されている家事介護型ヘルパーに加え、身体介護型ヘルパーを週七回・一回三時間派遣し、食事介護・排泄介護・身体清拭・洗髪をすることを求める旨記載したホームヘルパー派遣変更申請書を提出し、ホームヘルパー派遣内容の変更を求めた(以下「本件変更申請書の提出」という。)。
被告福祉事務所長は、平成八年一月八日付で、原告に対し、ホームヘルパー派遣変更決定(以下「本件変更決定」という。)をした。その内容は、食事介護、排泄介護、身体清拭、洗髪という身体介護を含めるものであったが、派遣時間及び回数については、週三回・一回二時間であり、従前に比べ一回の派遣時間は変わらず、派遣回数をわずか週一回増やしたにすぎなかった。
5 本件変更決定は、次の理由で違憲・違法である。
(一) 憲法一三条及び二五条によって抽象的権利として保障された高齢者の介護サービスを受ける権利は、老人福祉法(平成九年法律第一二四号による改正前のもの。以下「法」という。)一〇条の三、一〇条の四、一一条、二〇条の八等の諸規定によって具体的権利となった。特にホームヘルパーの派遣を求める権利については、市町村が厚生大臣の定める標準を参酌して自ら策定する市町村老人福祉計画に基づき、政令(法施行令)で定める基準に従い、厚生省令(法施行規則)で定めるサービス内容で実施するホームヘルプサービス事業によってホームヘルパーの派遣を求めることができることが具体的権利として保障されている。
その権利の内容は、憲法一三条及び二五条からは、要介護高齢者が居宅において「個人としての尊厳を保ちながら、日常生活や社会生活を送ることができるよう、日常生活の維持を図るために必要なサービス」を受けることができるというものである。この趣旨に基づき、法施行令一条の二において、法一〇条の四第一項一号の措置の具体的基準を示し、「当該六十五歳以上の者が居宅において日常生活を送ることができるよう、当該六十五歳以上の者の身体及び精神の状況並びにその置かれている環境に応じて適切な……便宜」と定めているのである。
在宅ケアにおける援助目標として、生命体の維持、日常生活の維持、社会生活の維持の三つのレベルに分類したとき、少なくとも日常生活の維持のレベルが援助目標レベルとされなければならない。具体的には、自宅内での車椅子等での移動や食事、排泄、入浴時の移動が介助により確保され、食事は一日三回食卓で摂ること、排泄は一日七、八回トイレ又はポータブルトイレ使用で行うこと、入浴は少なくとも週二回は自宅の風呂や訪問入浴制度の利用により行うこと、着替えも起床時と就寝時の援助により日中は普段着での生活をすることがいずれも確保されることである。
被告大阪市は、平成四年四月一日制定に係る大阪市ホームヘルプサービス事業運営要綱(以下「本件要綱」という。)及びその事務細則である大阪市ホームヘルプサービス事業事務処理要領(以下「本件要領」という。)に基づいて高齢者に対するホームヘルパーの派遣事業を行っている。本件要綱と本件要領で定めているホームヘルパー派遣基準(以下「本件派遣基準」という。)は、不十分ではあるがニーズと無関係な画一的な基準ではない点でケアミニマム(サービス提供の最低基準)に次ぐ基準足り得るし、被告大阪市自らが市民に対して約束した基準として、被告大阪市は、少なくとも本件派遣基準に従った派遣は確保する義務があったというべきである。
(二) 本件変更決定の当時及びその前後の原告及び一郎の状況は、次のとおりであった。
(1) 原告は、平成五年七月一二日、退院時において、「左大腿骨骨折及び脳梗塞に起因する両上肢機能の軽度の障害及び両下肢機能の著しい障害」を有すると診断されて、身体障害者二級の認定を受けてその手帳の交付を受けていた。そして、その後も、脳梗塞の後遺症と相まって日常生活上の障害が次第に進行し、同年一一月から平成六年七月までは「寝たり起きたりの状態又は一日中ベッドで過ごす状態」、更には「寝たきり状態」になっていった。特に歩行が困難となり、立ち上がりも寝返りもできなかったが、支えがあれば立っていることはできた。嚥下障害があるため食事の介護も必要で、その上痰を吐きだすことも困難でそのための援助も必要であり、排泄の身体的機能は維持されていたがポータプルトイレの使用にも援助が必要であった。また、次第に、車椅子に長時間坐ることも腰の痛みを伴うようになっていた。入浴についても全面的な援助を必要とする状態になっていた。
(2) 一郎は、高齢で、胃炎、気管支炎、高血圧症という持病もあり、平成六年九月に転倒して肋骨にひびが入り、更に同年一〇月には腰痛の自覚症状も見られ、通院するようになった。同年一二月三日に医師から「寝たきり老人(母)の世話のため慢性疲労の状態」と診断されている。このように、一郎は、遅くとも、平成六年夏ころから、長期の介護による精神的肉体的な疲労により、移動援助を伴う原告の身体介護をすることが困難となり、平成七年秋にはそれが極めて困難な状態になっていた。
(三) 原告及び一郎の右(二)のような状態を前提とすると、在宅ケアにおける援助の目標を日常生活の維持のレベルとするためには、原告には、少なくとも週七回・一回三時間のホームヘルパーの派遣を求める権利があるというべきであり、仮に本件派遣基準に従ったとしても、週五回・一回三時間(又は週一八時間)のホームヘルパーの派遣を求める権利がある、というべきである。
以上、いずれにしても、本件変更決定は、本件派遣基準にも違反するもので、裁量権を逸脱した違憲・違法な決定である。
(四) 本件変更決定には、行政手続第二章の「申請に対する処分」の規定の適用がある。仮に、同法三条二項の適用除外規定により同法の適用がないとしても、同法三八条の趣旨を受けて定められた大阪市行政手続条例第二章の「申請に対する処分」の規定の適用があり、行政手続法とほぼ同様の手続的規制を受ける。そして、本件変更決定には、次に述べるとおり、行政手続法ないし大阪市行政手続条例違反及びその他の手続上の違法もある。
(1) ホームヘルパー派遣変更申請に対する受理の遅延
村井や石井は、前記3のとおり、平成五年一〇月から平成七年一一月二一日の本件変更申請書の提出までの約二年間、原告によるホームヘルパー派遣変更の申請を受理せず、申請を妨害した。
(2) 本件変更申請書の提出に対する標準処理期間の不明示と本件変更決定の遅延
被告福祉事務所長は、原告が平成七年一一月二一日にした本件変更申請書の提出を受けて同年一二月六日に原告宅における調査を済ませたにもかかわらず、本件変更決定は翌年の平成八年一月八日まで遅延する結果となった。
本件変更決定について、被告大阪市は、行政手続法又は行政手続条例などに定められる標準処理期間を設定せず、公表もしていない。標準処理期間を定めていない場合にも、ホームヘルパーの派遣の要否の決定という、性質上、申請者の命と生活の基本に関わる事項については、特に迅速性が要求され、しかも、本件変更決定は、既にされている派遣の変更であって、全くの新規の派遣ではないことに鑑みると、担当職員の訪問調査から一箇月余り後でされたことは、余りにも遅すぎる。
(3) 本件変更申請書の提出に対する一部拒否についての理由提示違反
本件変更決定は、週七回・一回三時間の派遣の追加を求める申請に対する一部拒否の処分の性質を有する。ところが、被告福祉事務所長は、本件変更決定の通知書において右一部拒否の理由を全く付記しなかった。これは、本件要綱においてホームペルパー派遣却下決定の場合にはその理由を付記することを予定していることとの対比からいっても、公平を欠くもので、違法である。
6 また、被告福祉事務所長には、ホームヘルパー派遣決定をした後、継続的に原告がその心身の状況に応じて最も適切なサービスを受けられるようにするため、必要な情報を収集するなど調査した上で、事情の変化に応じて派遣内容を見直す義務(以下「派遣状況管理義務」という。)がある。
しかし、村井及び石川は、平成五年一〇月の原告の退院以降、平成八年一月の本件変更決定までの二年余りの間、週二回・一回二時間の家事介護型のヘルパー派遣の決定のまま放置した。これは、原告に対する不法行為というべきである。
7 更に、右6に加えて、一郎による派遣変更の申出のあった平成五年一〇月二五日以降、被告大阪市の公務員である被告福祉事務所長及び担当職員は、右5(一)ないし(四)のとおりの違法行為を行ったもので、このような種々の申請妨害行為並びに本件変更決定により原告の被った精神的苦痛を慰謝料として評価するならば、右同日から現在まで継続して一箇月について二〇万円(合計約一一四〇万円)を下らない。原告はそのうちの一〇〇万円を損害賠償として請求する。
弁護士費用としては五〇万円が相当である。
8 よって、原告は、被告福祉事務所長に対し、右5の事由に基づいて、本件変更決定の取消しを求めるとともに、被告大阪市に対し、右6、7により、国家賠償法一条一項に基づき、一五〇万円及びこれに対する被告大阪市への訴状送達の日の翌日である平成八年四月二三日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告福祉事務所長の本案前の主張(処分性、訴えの利益の欠如)
1 処分性について
(一) 原告は、ホームヘルパーの派遣ないし派遣変更について申請権を有しないから、本件変更決定はいわゆる申請(一部)拒否行為として処分性を有するとはいえない。なぜなら、まず、法一〇条の四第一項の規定は国民に申請権を与えたものではない。次に、ホームヘルパーの派遣は、被告大阪市が独自の裁量施策として、本件要綱及び本件要領に基づいて実施しているものであり、本件要綱及び本件要領は、法施行令、施行規則を具体化した規定ではない。そして、本件要綱及び本件要領は、ホームヘルパーの派遣希望者からの申請に関しては明確に定めていないだけでなく、本件要綱及び本件要領に定める本件派遣基準内で裁量によって各措置を行うものとしていて、現にそのような運用を行っている。このように、本件要綱及び本件要領においてホームヘルパーの派遣の申出について定めているのは、手続的権利としての申請権を与える趣旨ではなく、ホームヘルパー派遣についての相談として、被告福祉事務所長にホームヘルパーの派遣に関する調査やその調査結果に基づく裁量による職権発動を促すための一端緒とするために定めているものにすぎない。
(二) 本件変更決定自体も、国民の権利義務を確認したり形成したりするものではない。
まず、講学上、行政行為としての確認行為とは、特定の事実又は法律関係に疑い又は争いがある場合に、公の権威をもってその存否又は真否を確認する行為をいうとされるが、本件変更決定は、既に特定の事実又は法律関係が客観的に存在していてそのことを公の権威をもって確認するものではなく、あくまでも被告福祉事務所長が本件変更決定を行って初めて、原告が変更された内容の派遣を求め得る状態に至るものであるから、これに当たらない。
次に、講学上、行政行為としての形成的行為には、「特許又は剥権行為」と「認可又は代理」があるとされる。前者については、相手方に特別に法律上の権利を新たに付与若しくは設定し又は剥奪することが法律の規定により行政庁に認められているものであるところ、本件変更決定は、法律の規定によってものではなく、あくまでも行政庁内部の事務準則たる本件要綱に基づいてされたものであるから、これに当たらない。また、本件変更決定は、第三者の何らかの行為を補充してその効力を完成させるものではなく、第三者に代わって被告福祉事務所長が行うものでもないから、後者にも当たらない。
2 訴えの利益について
被告福祉事務所長は、本件変更決定後、平成八年四月一日付で原告に対し派遣回数を週四回・一回二時間とする旨のホームヘルパー派遣変更決定(以下「第二回変更決定」という。)を、更に、平成九年一一月四日付で原告と一郎に対し週六回・週一八時間とするホームヘルパー派遣変更決定(以下「第三回変更決定」という。)を行った。これらの新たな変更決定は、従前の派遣を変更して以後は変更後の内容の派遣を行うとする別の新たな決定であり、現在は第三回変更決定で定められた週六回・週一八時間の派遣を行っている。したがって、原告には、週三回・一回二時間の派遣を行うこととした本件変更決定の取消しを求める法律上の利益はない。
仮に現時点において判決によって本件変更決定が取り消されたとしても、本件変更決定当時と現時点とでは、原告及び一郎の体調、身体能力、介護力等が著しく異なっており、本件変更決定当時の状況に基づいて派遣内容を判断することはできないから、被告福祉事務所長は判決の趣旨に沿って決定し直すことはできない。
三 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は、平成四年一二月に原告が脳梗塞後遺症と診断されたとの点は不知、その余の点は認める。
3 同3の事実は、平成五年一〇月二五日、一郎が、村井に対して、サービス内容として排泄の介護を記入した通知書の交付を求めたこと、平成六年一一月四日、一郎が石川に対しサービス内容に清拭を追加するよう申し入れ、ホームヘルパー派遣変更申請書の交付を求めたことは認め、その余は否認する。一郎は平成五年一〇月二五日に村井に対し派遣回数の増加を求めたことはないし、平成六年一一月四日に実態調査の依頼をしたこともない。
4 同4の事実は認める。
5 同5は争う。ただし、同5(二)(1)(2)の事実のうち、原告が、食事、排泄のときを除いてベッドで横になっていることが多いこと、自分での歩行が困難なこと、排泄はポータブルトイレで行っており援助が必要であることは認める。
6 同6、7は争う。
四 被告福祉事務所長の本案前の主張に対する反論
1 処分性について
(一) ホームヘルプサービス事業は、大阪市が独自の裁量施策として実施しているものではなく、法一〇条の四に基づいて実施しているものである。市町村は、同事業実施に当たっては、昭和五一年五月二一日社老二八号厚生省社会局長通知「在宅老人福祉対策事業の実施及び推進について」に従い、同通知添付の「老人ホームヘルプサービス事業運営要綱」に準拠した要綱を制定することになっており、同要綱は、ホームヘルパー派遣の開始に当たっては必ず「ホームヘルパー派遣申出書」を提出させることとし、更に、「市長村長は、申出があった場合は、本要綱を基にその必要性を検討し、できる限り速やかに派遣の要否を決定するものとする。」として、派遣申請に対しては可及的迅速に派遣決定を行うことを市町村に求めている。被告大阪市の本件要綱は、右通知に従って制定されたもので、その内容も右通知添付の要綱に準拠していて、ほとんど同一内容であり、派遣申出を受けた福祉事務所長は、派遣決定通知書又は派遣却下通知書により必ず申出者に対して通知しなければならないものとされている(本件要綱六条)。こうした規定は被告福祉事務所長の応答義務を規定したものである。本件要綱が行政庁の内部準則であるとしても、市政だより等によって申出方法とともに大阪市民に広く公表されているため、市民に対し宣明し、制度化されたものであるといえること、並びに、法の目的(一条)、基本理念(三条)、国及び地方公共団体の責務(四条)、法の下の平等の原則(憲法一四条)に照らせば、ホームヘルプサービス事業は市民すべてに対して公平に行われなければならず、応答をすべきかどうかについて恣意的な裁量権を与えたものとは考えられないことからすると、ホームヘルパー派遣の申出に対する応答義務すなわち右派遣についての法令上の申請権を肯定できる。職権による派遣開始や派遣変更がされるとしても、そのことは申請権を否定する根拠とならないことは、生活保護法の例を見ても明らかである。
なお、本件要綱には派遣内容の変更を派遣対象者から求める手続が規定されていないが、派遣変更を求めることは、従来の派遣内容に加えて新たな派遣の開始を求めること、あるいは、従来の派遣内容を解消して新たな派遣内容のサービス開始を求めることと等しいので、新たな開始を求める部分については、全く初めての派遣開始を求める場合と同様に申請権を認めることができる。また、ホームヘルプサービスの提供が市民すべてに公平に行われなければならず、その恣意的選択が許されないのは、派遣の開始の要否に関してだけでなく、サービスの回数、時間、内容等に関しても同様である。本件要綱六条三項が派遣内容の変更を行った際に派遣変更通知書による通知を定めているのは、単なる便宜による通知ではなく、派遣内容の変更についての申請権の存在を前提としている。
(二) 本件変更決定は、原告に対して週三回・一回二時間のホームヘルパー派遣を受ける具体的権利を設定する形成処分として処分性を肯定することができる。
2 訴えの利益について
(一) 本件変更決定を、派遣変更申請に対する一部拒否処分と捉えた場合、その後、派遣回数を増やす第二回、第三回変更決定があったとしても、訴えの利益は失われない。なぜなら、本件変更申請書の提出によって原告が求めたのは週七回・一回三時間のホームヘルプサービスであり、第二回、第三回変更決定によっても、派遣内容は週六回にすぎず、週当たりにして一回、すなわち三時間分の実現されていない部分が存在し、拒否部分が未だ残っているからである。
(二) 本件変更決定が権利を形成する行政処分であるとの観点から処分性を基礎づけた場合も、訴えの利益は認められる。
この場合、本件変更決定の後に更に変更決定がされたことにより本件変更決定の効力が失われたかが問題となるが、新たな処分は本件変更決定の効力を維持しつつ、これに週一回を加え(第二回変更決定)、更に週二回を追加した(第三回変更決定)にすぎないとみるべきである。福祉サービスはサービスを受ける者の状態に応じて提供されなければならないから、福祉サービスについての処分は短時間に次々と新しく行われることになる。その中の一つの処分について受給者が不服を抱き取消訴訟を提起した場合、新たな処分が出されれば従前の処分について争う利益がなくなるとしたのでは、訴訟に要する通常の期間を考慮に入れれば、殆どのケースについて門前払いの判決を受けることとなり、それでは、福祉サービスに関する処分について取消訴訟という手段を用いて権利を実現する機会を奪うことにほかならない。
被告福祉事務所長は、仮に本件変更決定が取り消されたとしても、もはや本件変更決定がされた時点の状況に基づいて派遣内容を判断することはできないから訴えの利益はないと主張するが、現在の原告の要介護度は本件変更決定時より高くなっていることは明らかであるから、週三回への派遣変更が行われた本件変更決定時の原告の心身の状態から判断して既に週七回の派遣が必要であったとの理由により本件変更決定が取り消されれば、被告福祉事務所長は、現在行っている週六回の派遣でも不十分であることを認めて週七回以上の派遣を可能にするための派遣変更決定を行う義務があることになるだけである。
五 被告らの主張
1 被告福祉事務所長の裁量の存在について
高齢者のおかれた個別具体的な状況及び環境において、法一〇条の四の定める便宜を供与するか否か、各便宜のうちどのようなものを供与するのが適切であるかの決定は、高齢者のADL(日常生活動作)や介護者の介護力についての専門的、技術的な判断を要する事柄であるし、財政上の制約やホームヘルパーの人的資源の制約等、様々な事情を総合的に勘案した政策的判断を要するものであることから、法は、これを市町村の裁量に委ねているものというべきである。本件事業は、被告大阪市が国から一定の補助を受けながら一般財源の中で実施しているものであり、当然に財政的制約を受けざるを得ない。仮に財政的制約による裁量がなく、財源の枠を超えてサービスを行うことが法により義務付けられているとすれば、多くの場合、市町村の行政全般の適正な遂行に支障が生じることは明らかである。このように、財政的制約が存在することは、高齢者福祉に要する費用を一般財源に頼るのではなく、社会保険の方式により賄うべきであるとして介護保険法が制定され、同法に基づく老人介護制度が創設されるに至ったことからも明らかである。
そうすると、本件派遣基準に定められた派遣時間はあくまでも一つの目安として派遣決定の際に参考とされるものにすぎず、実際の派遣時間がそれに満たないからといって直ちにその措置が違法になるものではない。
2 本件変更決定の内容が裁量権の範囲内であることについて
原告についてのホームヘルパーからの巡回日誌又は口頭による報告や老人訪問看護ステーションからの生活保護老人看護券・老人訪問看護料明細書、医療要否意見書、在宅サービス連絡表等からの情報によると、原告の健康状態、介護の必要性に関しては、体調には波があるものの、気分が良いときにはよく話をするくらいの元気はあり、三〇分間位は座位を保持すること、食物を自分で口に運ぶこと、足を軽く踏ん張ること等ができることが認められたし、平成七年一二月六日に村井、石川らが原告宅を訪問調査した際も、原告は少しの介助で起きることができ、足をベッドの下に降ろして両手でベッドの柵につかまって坐った上、両膝を上下させてみせるなど、自分でできることはできるだけやろうとの意欲を十分持っていることが認められた。
一方、一郎の健康状態は、胃炎、高血圧症、気管支炎等に罹患しているほか、食事、排泄等の介護の負担による腰痛の悪化が認められた。
訪問調査の際、一郎は、原告は嚥下が困難なため食物をつまらせることがあり、入れ歯を外して口の中の物をティッシュペーパーで取り除くことを一回の食事につき三度四度行うため、原告に食べさせる時間がかかり一郎自身がゆっくり食事できないので、原告の食事介護のための派遣を増やしてほしいと要望した。
また、一郎は、排泄介護の際、原告をベッドと便器の間で移動させるため原告を抱き抱えるので、一郎の腰に負担がかかり、腰痛を患うようになったとして、排泄介護を希望したが、従前もホームヘルパーの訪問時に排泄がなされればホームヘルパーはこれを介護してきていた。
清拭についても要望があったが、ホームヘルパーが医師等の専門家によるバイタルチェックなしに全身清拭を行うことはできないことから、必要があれば、看護婦と連絡をとった上で行うこととした。
村井、石川は、再三にわたって、老人日常生活用具の支給制度により電動ベッド、介助バー、電動式移動リフト等を利用して介護の負担の軽減をはかることを勧め、また、ショートステイや老人保健施設、ホームケアー等の施設の利用を取り入れることによりその間の一郎の負担を軽減することを勧めた。しかし、一郎はこれに応じなかった。
当時、城東区では、ホームヘルパーの配置状況に若干の改善がみられることになっていた。すなわち、原告は所得税非課税世帯であるため大阪市社会福祉協議会の常勤ヘルパーが派遣されるところ、城東区における右ヘルパー数は三一名であったのが、平成七年一二月に三七名に増員予定であった。
平成七年一一月における城東区での派遣実績によれば、ホームヘルパーの派遣を申し出ながら派遣を受けていない待機者は八五名いた。原告のように家族と同居している高齢者で全面介助を要する者については、同月に三件の派遣がされているが、その内容は、週三回・一回二時間が一件、週二回・一回二時間が二件であり、待機者は九名いた。
原告は、ホームヘルプサービス以外のサービスとして、訪問看護を週二回、特別養護老人ホームでの施設入浴サービスを二週間に一回受けていた。
被告福祉事務所長は、右のような事情を総合的に勘案して、原告に対して、食事介護のため、週一回・二時間の派遣を増やし、週三回・一回二時間に変更することとしたものであり、その判断には何ら裁量権の逸脱はない。
3 ホームヘルパー不足について
被告大阪市においては、社会福祉法人大阪市社会福祉協議会所属の常勤ヘルパーを所得税非課税世帯に、財団法人大阪市ホームヘルプ協会所属の非常勤ヘルパー(登録ヘルパー)を所得税課税世帯に派遣している。非常勤ヘルパーは、あらかじめ稼働可能な曜日、時間帯を限って届出を行い、登録されるものであるため、登録数は多くても実際の個々の派遣対象世帯の都合に合致する非常勤ヘルパーは必ずしも多いとはいえない。また、都合が合致した場合でも、派遣を要請した時点で拒否されれば、常勤ヘルパーとは異なり派遣を命ずることはできない。こうした事情が、非常勤ヘルパーの派遣実績が低調なものにとどまっている原因となっている。したがって、大部分の非常勤ヘルパーが余っているという様な状態にはないのであり、被告大阪市が本件要綱及び本件要領を改正して非常勤ヘルパーを所得税非課税世帯に対しても派遣するように運用を改めたとしても、そのことによりヘルパー不足が解消し、待機者がなくなるものではない。
被告大阪市は厳しい財政状況の下でホームヘルパーの増員に努めている。
本件変更決定当時の大阪市高齢者保健福祉計画によれば、平成七年度末におけるホームヘルパー数の目標量は、高齢者向けと障害者向けの双方を含めて一三三三人であったが、ホームヘルパー数の実績は、常勤ヘルパー七四九人、非常勤ヘルパー九三〇人である。身体介護中心の常勤ヘルパー一人は一日当たり二件の派遣を年間二八七日行い、家事介護中心の常勤ヘルパー一人は一日当たり三件の派遣を年間二八七日行うものとして、非常勤ヘルパーの常勤換算を行うと、高齢者向けと障害者向けの双方を含めて一三九五人であり、目標を達成している。
4 手続違反について
原告は、行政手続法又は行政手続条例違反を主張するが、ホームヘルパーの派遣内容の変更について申請権は認められないから、行政手続法又は大阪市行政手続条例の適用はない。その他の手続違反もない。
5 派遣状況管理義務違反について
被告福祉事務所長は、原告の健康状態、介護の必要性については、ホームヘルパーからの巡回日誌又は口等による報告や、老人訪問看護ステーションからの生活保護老人看護券・老人訪問看護料明細書、医療要否意見書等により把握し、また、一郎の健康状態については、ホームヘルパーからの報告によって把握するとともに、生活保護老人看護券・老人訪問看護料明細書、医療要否意見書等によっても健康状態を把握し、右訪問看護等によるサービスと密接に連携できるよう、在宅サービス連絡表の利用や電話での連絡による情報交換を密に行っている。
これらの情報によって、原告の健康状態、介護の必要性に関しては、前記のとおり、体調には波があるものの、気分が良いときにはよく話をするくらいの元気はあり、三〇分間位は座位を保持すること、食物を自分で口に運ぶこと、足を軽く踏ん張ること等ができることが認められ、提供中のサービスの内容等について特段考慮すべき変化は認められず、また、一郎の健康状態も、胃炎、高血圧症、気管支炎等の治療は見受けられるものの、腰痛の治療を行った形跡は認められず、介護能力が急激に低下したことを認めるような事情もなく推移してきていた。したがって、本件変更申請書の提出がされるまで原告宅を訪問調査しなかったり、派遣変更決定をしなかったことに違法はない。
六 被告らの主張に対する原告の反論
1 被告福祉事務所長の裁量の存在について
法施行令一条の二は、「居宅において日常生活を営むことができる」程度にサービスを提供することを市町村に義務づけているが、居宅において日常生活を営むことができるために必要な条件は各人毎に容易に測定可能であるから、そのために最低限必要なサービスの基準は極めて具体的であるといえる。サービス提供の最低基準(ケアミニマム)は憲法や法の趣旨に従って定まるものであって、行政の裁量に委ねられるものではなく、また、これが生存権保障の一環である以上、ケアミニマムに満たないサービスの提供しかできないことを財源難や人材不足を理由に正当化することはできない。また、本件要綱及び本件要領は、極めて明確な基準を定めており、「ホームヘルパーの派遣対象者は、老衰、心身の障害及び傷病等の理由により臥床しているなど、日常生活を営むのに支障がある高齢者又は重度の身体障害者であって、本人又はその家族が家事介護等のサービスを必要とする場合とする。」(本件要綱四条)、「派遣対象者の心身の状況、介護の状況、生計の状況その他必要な事項につき調査を行い、ホームヘルパー派遣状況調書を作成し、身体的状況、世帯の状況等を十分検討したうえ、派遣の要否、派遣回数、時間数、サービス内容を決定する」(本件要綱六条)と定め、ホームヘルパー数の不足や財源の不足等の事情を理由とする派遣の拒否や留保を認めていない。
2 本件変更決定の内容が裁量権の範囲内であることについて
「三〇分位座位を保持すること、食物を自分で口に運ぶこと、足を軽く踏ん張ること」は体調が極めてすぐれている時のみ妥当することであるし、原告宅の訪問調査の結果をまとめた記録には嚥下機能障害の悪化が何も触れられておらず、食事については「何とか自分で食べることができる」とすら書かれている。平成五年一〇月のサービス再開時点以後原告のADLが低下したことは、ヘルパー巡回日誌、在宅サービス連絡表及び医療要否意見書等からも明らかであるのに、被告福祉事務所長はこれらの書類の検討も行っていない。村井や石川によるADL評価には事実誤認がある。
一郎の健康状態も、腰痛について静脈注射による痛み止め治療を受けているし、一郎の健康状態が悪化したことをヘルパーに訴えていることはヘルパー巡回日誌や医療要否意見書からも明らかであるのに、訪問調査時まで把握されていなかった。胃炎等も徐々に悪化しているし、慢性疲労からくる手足の腱鞘炎も見落されている。
3 ホームヘルパー不足について
大阪市ホームヘルプ協会の非常勤ヘルパー(登録ヘルパー)の中には、活動意欲を持ちながら、長期にわたって派遣されなかったり、派遣回数や派遣時間の少ない者が多数存在する、これらの非常勤ヘルパーを生活保護世帯、所得税非課税世帯にも派遣する扱いにすれば、現在の人員のままでも、派遣を希望するすべての世帯に対して本件派遣基準に従った派遣を行うことが可能である。
ホームヘルパーが不足しているとすれば、それは、被告大阪市が増員の努力を怠ってきたためである。そもそも、ホームヘルパー数の目標量の設定に当たって、ホームヘルパーの日誌作成等の事務時間、ミーティングの時間、派遣先への往復時間等を要することが十分に考慮されておらず、目標量自体が低すぎる。
更に、その目標量さえ達成されていない。すなわち、被告大阪市における平成七年度末の非常勤ヘルパー数九三〇人を常勤ヘルパー数に換算するには、各非常勤ヘルパーの年間総労働時間数を常勤ヘルパー一人当たりの年間総労働時間である二一八四時間で割らなければならない。各非常勤ヘルパーの年間総労働時間数は一〇万一七八二時間であるから、これを二一八四時間で割ると、46.6人にしかならない。したがって、平成七年度末における被告大阪市のホームヘルパー数は、常勤ヘルパー七四九人と合わせても合計七九五人にしかならず、平成七年度末の目標量である一三三三人を達成していない。
4 手続違反について
法令上の申請権に基づくものであることは、被告福祉事務所長の本案前の主張に対する反論で述べるとおりである。
5 派遣状況管理義務違反について
ヘルパーの報告のみならず医療関係の専門家等の判断をも併せ検討し、要介護性についてケース検討会を開いて客観的に判断すべきであるのに、被告大阪市ではこのような態勢がないし、コーディネーターとホームヘルパーの連絡も僅かしか行われておらず、それも弁護士の関与後に行われるようになったものである。
村井や石川は、高齢者の家族が介護者として存在する場合は、これが病気にならなければホームヘルパーを派遣しないとの発想を持っていた。これは、厚生省作成の「ホームヘルプ事業運営の手引き」や本件要綱に反する。
理由
一 被告福祉事務所長に対する訴え(本件変更決定の取消しの訴え)について
1 被告福祉事務所長がした本件変更決定が、原告がした本件変更申請書の提出との関係で、原告の申請を拒否する内容の行政処分としての性質を有するかどうかについて検討する。
2 本件変更決定の内容は、従来、家事介護に限定されて週二回・一回二時間ホームヘルパーを派遣するとされていたものを、食事介護、排泄介護等の身体介護を含めて週三回・一回二時間ホームヘルパーを派遣するというもので、従来の派遣決定の内容に比較して原告に有利な内容となってはいるが、週七回・一回二時間の派遣を求める原告の本件変更申請書の提出との関係では原告に不利益な内容となっていることは確かである。このような場合、本件変更決定が、法律上、本件変更申請書の提出との関係で、原告からの申請を一部拒否する内容の行政処分(申請に対する拒否処分)としての性質を有するか否かについては、その根拠となる法令が個々人に対して派遣を求める申請権を付与しているものと解し得るかどうかによって決すべきである。そして、本件変更決定の法律上の根拠は法一〇条の四第一項一号と解されるから、まず、法が、国民に対し、法一〇条の四第一項一号の措置を採ることを求める申請権を与えているかどうかが問題になる。
3 ところで、法一〇条の三は、「市町村は、六十五歳以上の者であって、身体上又は精神上の障害があるために日常生活を営むのに支障があるものが、心身の状況、その置かれている環境等に応じて、最も適切な処遇が受けられるように居宅における介護等の措置及び特別養護老人ホームへの入所等の措置の総合的な実施に努めなければならない。」、法一〇条の四第一項は、「市町村は、必要に応じて、次の措置を採ることができる。」とし、一号として「六十五歳以上の者であって、身体上又は精神上の障害があるために日常生活を営むのに支障があるものにつき、政令で定める基準に従い、その者の居宅において入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活を営むのに必要な便宜であって厚生省令で定めるものを供与し、又は当該市町村以外の者に当該便宜を供与することを委託すること。」、法一二条は、「市町村長は、第十条の四第一項若しくは第二項又は前条第一項の措置を解除しようとするときは、あらかじめ、当該措置に係る者に対し、当該措置の解除の理由について説明するとともに、その意見を聴かなければならない。ただし、当該措置に係る者から当該措置の解除の申出があった場合その他厚生省令で定める場合においては、この限りでない。」、法一二条の二は、「第十条の四第一項若しくは第二項又は第十一条第一項の措置を解除する処分については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第三章(第十二条及び第十四条を除く。)の規定は、適用しない。」と定め、更に法一〇条の四第一項一号の規定を受けた法施行令一条の二には「法第十条の四第一項第一号の措置は、当該六十五歳以上の者が居宅において日常生活を営むことができるよう、当該六十五歳以上の者の身体及び精神の状況並びにその置かれている環境に応じて適切な同号に規定する便宜を供与し、又は当該便宜を供与することを委託して行うものとする。」と、法施行規則一条の二には「法第十条の四第一項第一号に規定する厚生省令で定める便宜は、入浴、排せつ及び食事等の介護、調理、洗濯及び掃除等の家事並びに生活等に関する相談及び助言その他の身体上又は精神上の障害があって日常生活を営むのに支障がある六十五歳以上の者に必要な便宜とする。」と定められている。
これらの各規定をみると、法は、市町村に対し、右各規定の内容に従った措置の総合的な実施に努めるべきことを定めてはいるが、個々人がホームヘルパー派遣の申請権を有すること、あるいは、これを前提とした申請の手続や派遣の措置が認められなかった場合の不服申立てに関する規定はなく、右の申請権があることを窺わせるような規定もない。
このことは、同じく給付行政について申請権を認める立法政策を採っていると解される他の法令の規定と比較すれば一層明らかである。例えば、生活保護法七条本文は、「保護は、要保護者、その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始するものとする。」と定め、同法二四条は、保護の開始の申請又は保護の変更の申請があったときは、保護の要否、種類、程度及び方法を決定し、申請者に対して書面をもって、これを通知しなければならない旨、右の書面には決定の理由を附さなければならない旨、右の通知は申請のあった日から一定の期間内にしなければならず、一定の期間内に前記の通知がないときは、申請を却下したものとみなすことができる旨を規定しており、更には、審査庁に対する不服申立てや取消訴訟に関する規定(六四条ないし六六条、六九条)もある。平成一二年四月から施行予定の介護保険法も、その二七条において、「要介護認定を受けようとする被保険者は、厚生省令で定めるところにより、申請書に被保険者証を添付して市町村に申請をしなければならない。」と定めた上、市町村は右申請があったときは、当該職員をして調査をさせ、被保険者の主治の医師に対して意見を求める旨、これらの結果を認定審査会に通知し、認定審査会の審査及び判定を求める旨、その結果に基づき、当該要介護認定をした場合も、要介護者に該当しないと認めた場合も、被保険者に通知しなければならず、後者の場合は理由を付すべき旨、右申請に対する処分は申請のあった日から一定の期間内にしなければならず、一定の期間内に処分がされないとき等においては、申請を却下したものとみなすことができる旨等を規定しており、更には、審査庁に対する不服申立てや取消訴訟に関する規定(一八三条ないし一九六条)もある。
これらの法令の各規定と法の前記各規定とを対比してみても、法が、ホームヘルパーの派遣又はその変更について、申請権を認める立法政策を採っていると解することは困難であるといわざるを得ない。
4 原告は、本件要綱及びその細則である本件要領においてホームヘルパーの派遣について、その申請手続とそれに対して派遣の要否、派遣回数、時間数、サービス内容の決定をすること等が定められていることをもって、法令上の申請権の根拠となると主張する。しかし、本件要綱及び本件要領は、行政庁の内部規則にすぎず、議会の議決によって成立する条例のように法規範性を有するものではないから、これをもって、ホームヘルパーの派遣の措置を求める申請権を認める根拠とすることはできない。なぜなら、法律ないし条例の委任を受けない行政庁の内部規則の定め如何によって申請権その他の権利義務の有無を決するものとすることは、議会の意思に基づかずに国民の権利義務に変動を与えることを認めることとなり、かえって、国民の権利利益が行政庁の恣意により左右されることを認めることになりかねないからである。また、本件要綱や本件要領が法の具体的委任に基づいて右の内容の規定を設けたものであるとも認められない。
このようにみてくると、派遣の措置を求める者にその申請権を認めることも立法政策としては十分に考えられるが、本件において、原告の本件変更申請書の提出により原告が求めた内容どおりの派遣決定ないし派遣変更決定がされなかったからといって、本件変更決定を原告の申請を(一部)拒否するとの内容の行政処分と解することはできないというほかない。
5 次に、本件変更決定の法的性質について検討する。
前記の法の各規定に照らすと、ホームヘルパーの派遣の関する措置の中で、派遣の廃止は、法一〇条の四第一項の措置の解除であると解される。そして、法一二条と法一二条の二によれば、右の措置の解除をしようとするときは、あらかじめ、措置に係る者に対して解除の理由を説明し、その意見を聴かなければならないとされており、また、右の措置の解除については、行政手続法一二条(処分の基準を定めて公にすること等)、一四条(不利益処分をする場合にその名宛人に対して理由を提示すること等)の規定の適用があることが前提とされている。このことからすると、法は、右の措置の解除については、いったん決定により右の措置を受ける地位を取得した者から、その利益を奪い、又はこれを制限する不利益処分として、これを行政処分としていることが明らかである。
また、そうであるとすると、前判示のとおり、右の措置を求める申請権自体は是認できないとしても、新たにホームヘルパーを派遣する旨の措置は、名宛人に対し、右措置の内容に従ったホームヘルパーの派遣を求める法律上の地位を付与する、名宛人に有利な行政処分と解するのが相当であり、派遣の措置の変更は、従前の措置の内容に比較して名宛人に不利益な部分は措置の一部解除としての不利益処分、名宛人に有利な部分は新たな利益処分として、いずれも、行政処分と解すべきことになる。ただし、利益処分に対しては、名宛人はその取消しを求める法律上の利益はないといわざるを得ない。
右の判断によると、要するに、新たなホームヘルパーの派遣の申出に対してこれを拒絶する旨の通知を受けたとしても、その者は右の拒絶を自己に不利益な行政処分としてその取消訴訟を提起することはできないが、いったん、派遣の決定を受けた後に、それを廃止又は制限する内容の措置の変更を受けた者は、その不利益な部分については、これを行政処分として取消訴訟を提起できるものというべきである。
本件において、本件派遣変更決定は、それまで週二回・一回二時間しかホームヘルパーが派遣されず、その内容も家事介護に限定されていたものを、週三回・一回二時間のホームヘルパーの派遣とし、その内容を身体介護をも含めるものにしたのであるから、既に生じていた派遣を求める原告の権利を処分の名宛人である原告にとって有利に変更する処分であるといわざるを得ない。
なお、被告福祉事務所長は、被告大阪市のするホームヘルパーの派遣は同被告の独自の裁量施策として本件要綱及び本件要領に基づいて実施しているとの前提の下に、本件変更決定は法律の規定によったものではないから処分性がない旨の主張をするが、後に二2(一)で認定するように、確かに被告大阪市のホームヘルプサービス事業は国の制度に先駆けて独自に実施されていた歴史はあるが、本件変更決定当時は法一〇条の四に規定する措置として実施されていたものであるから、被告福祉事務所長の右主張は理由がない。
6 そうすると、本件変更決定は、行政処分ではあるが、原告にはその取消しを求める法律上の利益はない、といわざるを得ない。本件訴えのうち、原告が被告福祉事務所長に対して本件変更決定の取消しを求める部分は不適法であるから、却下を免れない。
二 被告大阪市に対する請求(損害賠償請求)について
1 前記の事実摘示において争いのない事実、証拠(甲一、四、五、一八ないし二一、二七、三〇、四六、四七、六一号証、乙六ないし一〇号証、乙一一号証の一ないし五六、乙一五号証の一ないし二四一、乙一六、一七、一九ないし三〇、三二、三三号証(以上、書証は、特記したものを除き、各枝番の書証を含む)、証人石川邦子、同甲野一郎、同村井義昌、原告本人)並びに弁論の全趣旨を総合すると、本件変更決定に至る経緯について、以下の事実が認められる。
(一) 原告は、明治四〇年九月一九日生まれの女性である。昭和四八年に当時九〇歳の母を看取った後は、独身の長男一郎(昭和八年六月二七日生まれ)と二人暮らしである。
(二) 原告は、母が死亡する前後から体調を崩し、高血圧症、心疾患、眼底出血等に罹患し、昭和六一年ころから満足に歩行することができなくなった。そこで、同年、当時居住していた大阪市旭区の福祉事務所長に対して家庭奉仕員の派遣申請を行い、同年七月二〇日付で、「おおむね週二回」の家庭奉仕員派遣決定を受けた。
原告は、平成三年五月二日、変形性腰椎症による体幹機能の著しい障害により身体障害者五級の認定を受けた。
原告は、一郎とともに、平成四年三月、大阪市城東区内の現住所地の大阪市営住宅に転居したため、被告福祉事務所長に対して家庭奉仕員の派遣申請を行い、同被告はこれに対し、同年六月六日付で「おおむね週二回」の家庭奉仕員派遣決定を行った。これによって、原告は引き続き「本人の身の回りの掃除、買物、調理」について家庭奉仕員のサービスを受けることになった。一郎は、当時、株式会社政府新聞社に勤務しており、原告を被扶養者としていた。世帯の収入としては、一郎の収入のほか、原告に対する国民年金と厚生年金があったが、一郎の収入は、所得税の非課税限度内の額であった。
平成四年一二月、原告は、台所で倒れ、脳梗塞後遺症と診断された。一郎は、平成五年一月、勤務していた前記の会社を辞職し、日中も自宅において原告の身の回りの世話や家事に専念するようになった。
原告は、平成五年五月一三日、自宅室内で伝い歩きをしていて転倒し、翌一四日に左大腿骨骨折のため入院したところ、被告福祉事務所長は、同年五月一七日付で、原告の入院を理由に同日から全治して退院するまでの間ホームヘルパーの派遣を停止する旨の通知をした。本件要領によれば、ホームヘルパーの派遣の継続中にその対象者が入院をした場合は派遣を停止するものとされていた。
原告は、平成五年七月一日、左大腿骨骨折及び脳梗塞に起因する両上肢機能の軽度の障害及び両下肢機能の著しい障害により二級の身体障害者に認定されたが、同年七月一二日退院し、自宅に戻った。
一郎は、前記のとおり勤務を辞めた後、原告の国民年金、一郎の退職金、一郎が加入していた生命保険の解約返戻金、旭区内の市営住宅からの移転の際の補償金等で生活していたが、原告が退院するころにはこれらも底をつき、経済面で生活に窮するようになった。そこで、一郎は城東区福祉事務所に対し、生活保護を受けたい旨相談したが、同事務所の担当者は、原告を老人病院に入院させて一郎は働くべきであると述べて、相手にしなかった。原告は入院をいやがっていたので、一郎は、原告の希望を何とか叶えてやりたいと思っていた。
一郎は、平成五年七月二八日、原告訴訟代理人の一人である阪田弁護士とともに城東区福祉事務所の生活保護の開始を要請しに行って生活保護の開始の申請書を交付されたので、被告福祉事務所長に対して生活保護の開始を申請し、生活保護を受給することになった。
ところが、被告福祉事務所長は、同年八月二日付で、「長男の介護が受けられるため」という理由で原告に対するホームヘルパーの派遣を同年七月一五日付で廃止する旨通知した。
一郎は、ホームヘルパーの派遣を廃止されて原告の介護に困難を来したため、地区ボランティアビューローや地域ネットワーク推進委員会に相談したが「今、適当なボランティアが見つからない。一郎が倒れたら相談に乗る。」といった返事しかなった。一郎は、ようやく、大阪市シルバーボランティアセンターから一箇月に二回、ボランティアによる買物、調理、掃除の援助を半年間を限度として受けることになった。
原告は、一郎を通じ、平成五年九月二四日、阪田弁護士を代理人として、被告福祉事務所長に対し、本件派遣基準によれば家族と同居している高齢者でも全面介助を要する「寝たきり高齢者及び一、二級身障者」については週に一二時間を限度とするホームペルパーを派遣することになっている旨を主張して、右のホームヘルパー派遣の廃止決定に対する異議申立てを行った。
被告福祉事務所長は、生活保護の手続の担当者から一郎に対する就労の指導をする上において、就労阻害要因を取り除くのが望ましいとの要望もあり、同年一〇月一四日付でホームヘルパー派遣の再開決定をして原告に通知した。それは週二回・一回二時間で、そのサービス内容は「買物、掃除、調理、車椅子での散歩」という家事介護に限定されていた。
(三) 一郎と福祉事務所の担当者との間では、右再開決定の際、とりあえず原告の入院前の状態に戻してその後のことは追々相談して決めることになっていた。ところが、その後、一郎は、やはり介護の負担が大きいと感じ、平成五年一〇月二五日、城東区福祉事務所の担当者の村井義昌主査に排泄介護、衣類着脱介護、おむつ交換、口腔保清等の介護サービスをサービス内容に加えるように求めた。これに対し、村井は、身体介護サービスは原則として同居者が介護できない場合にのみ行うこととなっているが、原告の場合は一郎がほとんど在宅しているから一郎が介護できるのではないかと述べて、その場で口頭で拒否した。
(四) 原告は、平成五年一一月九日からは、城東区医師会の行う訪問看護を週二回・一回一時間受けるようになった。訪問看護は、全身清拭やつめ切り、耳掃除、陰部保清、洗髪など、介護サービスに重点を置いたものであった。
平成六年の五月ころから、一郎は、原告の看護による疲労を訴えるようになり、そのことがホームヘルパー巡回日誌にも記載されるようになった。一郎は、平成六年の九月一二日、扇風機で脇腹を打ち、左肋骨にひびが入り、原告の介護の負担も重なって苦しんだこともあった。
原告は、平成六年九月ころまで、車椅子に移乗してホームヘルパーとともに調理をすることもあったが、同月末ころから腰痛のため横になったまま過ごすことが多くなった。原告は、特別養護老人ホーム高殿苑での入浴サービスを受けていたが、それは月二回にすぎず、これも腰痛等で体調が悪い場合は受けることができなかった。
この間、平成六年七月、一郎が訪問看護の主治医とトラブルを起こしたため訪問看護を受けられなくなった。原告は、従前、訪問看護によって清拭サービスを受けていたが、これが受けられなくなったため、ホームヘルパーが時々行う足浴や部分的清拭のほかは清拭サービスを受けられなくなった。一郎は、ホームヘルパーによる清拭を希望していたが、旭区内に住んでいた際は保健婦が清拭してくれていたので、平成六年八月二二日ころ、大阪市民政局や保健所に対し、ホームヘルパーによる清拭ができないなら、保健婦に清拭してもらえないかと相談に行ったが、断られた。
(五) 一郎は、平成六年一一月四日、城東区福祉事務所のコーディネーターの石川邦子に対し、ホームヘルパーの派遣時間の拡大をしてサービス内容に清拭を追加するよう申し入れ、ホームヘルパー派遣変更申請書の交付を求めた。前記のとおり、原告に対する訪問看護は停止されていたが、石川が他の医師に診療してもらって指示書を出してもらうよう教示して医師を紹介しており、阪田弁護士が医師と交渉した結果、原告に対する訪問看護が間もなく再開されることになっていた。石川は、一郎に対し、①ホームヘルパーによる清拭サービスをするには、医師等の専門家による健康状態についての診断が必要であること、②清拭をサービス時間内に行うとすれば、それまでの週二回・一回二時間の派遣では時間的に不足し、それまで行ってきた調理等のサービスが十分に行えなくなるため清拭の追加は難しいこと、③そのための派遣回数、派遣時間の増加については、城東区にはホームヘルパーの派遣を申し出て未だ派遣がされず待機している高齢者等が多数存在し、現時点では難しいこと、④今まで一郎が清拭できていたのであり、一郎は稼働能力があるのに介護するため在宅しているのだから一郎が清拭すべきであること、⑤週一回の訪問入浴を申し込む方法もあることを説明した。そして、石川は、同月七日に再開された訪問看護の第一回目に清拭が実施されたことを確認し、一郎の右要求は解決したと理解した。なお、一郎はホームヘルパー派遣変更申請書の交付を受けられなかったが、本件要領には変更申請手続は規定されておらず、派遣変更申請書は存在しなかった。
(六) 原告は、平成六年一二月ころからは、痰が切れにくい状態となり、嚥下障害が更に進行したためか、食物を飲み込むことが一層困難になった。
このため、原告は飲み込もうとしたものを吐き出したり、飲み込んだ後痰が大量に出てきてなかなか切れなかったりし、少量の食事にも二時間程度かかることは珍しくなく、ひどいときには三時間近くかかることもあった。そこで、一郎は、平成六年末ころ、ケースワーカーの岩本が訪問した際に食事介護と清拭介護を依頼した。
このころ、一郎にとっては原告の食事介護が最も負担の重い介護であった。一郎は調理もできないので、立ったまま食パンをかじるだけの食事を摂るといった状態であった。一郎は、原告の介護のため疲労が重なり、平成六年一二月には原告の世話のため慢性疲労と診断され、平成七年六月ころからは胃炎による胃痛を訴え、同年一〇月ころからは腰痛のため通院するようになった。
一郎は、平成七年一〇月ころ、ホームヘルパーを通じて城東区福祉事務所に原告の食事介助を依頼したが、認められなかった。原告は一郎への重い負担に心苦しく思い、「早く死んでしまいたい。」と口に出すこともあった。
(七) 原告は、平成七年一一月二一日、被告福祉事務所長に対し、阪田弁護士、木下和成及び竹下育男弁護士を代理人として、「現在、家事型ヘルパーの方に一回二時間、週二回来てもらっているが、これに加えて介護型ヘルパーを一回三時間、週七回派遣して頂きたい。希望する具体的な介護内容は、食事介護・排泄介護・身体清拭・洗髪である。」旨を書面に記載して、本件変更申請書の提出をした。
(八) 当時、城東区における常勤ヘルパーは三一名であったところ、平成七年一二月に三七名に増員されることになっていたことから、村井と石川は、原告に対して派遣回数の増加が可能であると判断し、平成七年一二月六日、ホームヘルパー二名とともに原告宅を訪問し、原告及び一郎の状況、必要な介護についての調査を行った。一郎は、原告は食事は自分で行えるものの嚥下が困難なためつまらせることがあり、その時には入れ歯を外して口の中の物をティッシュペーパーで取り除くことを一回の食事で三度四度行う旨、このため原告に食べさせる時間がかかり一郎自身がゆっくり食事できないので、原告の食事介護のための派遣を増やしてほしい旨述べた。
村井及び石川は、原告の健康状態、ADL(日常生活動作)、介護の必要性、一郎の健康状態、介護力については、ホームヘルパーからの巡回日誌や口頭による報告等を受けていた。最近の巡回日誌には、原告については、次のように記載されていた。
平成七年一〇月三一日「気分良さそうで、ベッドサイドで坐ってテレビを見る」「食欲もあり、作ってほしい物も積極的に注文する」
一一月七日「気分が良いのか、洋服に着替えてベッドサイドに坐っていた」
一一月一四日「気分良さそうで洋服にも着替えていた」「食事は吐き出す事もあるが、食べる事には積極的である」「シーツ交換時、車椅子に移乗する」「シーツ交換後、三〇分位ベッドサイドの坐りテレビを見る」
一一月二一日「気分が良いからと言い座位でテレビを三〇分位みる」
一一月二四日「気分も良くベッドサイドに座りテレビを見る時間も多くなった。食欲はあるとの事(吐き出すこともあるが、食べたいという意欲が大きい)」
一一月二八日「昨日から右脇腹の痛みを訴えているとの事」
一二月一日「水曜日夕方に発熱(三八度)、吐気、下痢等があり、診療所に連絡して処置してもらったとの事。診察の結果風邪との事」「右側腹部痛訴えあり、臥位では痛みなく、体動時と起坐時に痛みがあると言っている
一二月五日「風邪の症状がなおらない為食思なく、気分もすぐれないとの事」「関節の痛みも訴えている」
(九) このように、原告は風邪により体調を崩すことはあったが、体調の良いときは、食欲もあり、座位でテレビを三〇分位見ることができた。
訪問当日も、原告は、少しの手助けで身体を起こし、足をベッドの下へ降ろし、両手でベッドの柵につかまって坐り、両膝を上下させて見せた。村井と石川はこれを見て、ADLは加齢とともに低下はしているが、まだ自分でやる気のある人であると判断した。
一方、一郎については、巡回日誌の記載からも、介護疲れによる腰痛が悪化しているものと認められた。
石川は老人日常生活用具の支給制度により電動ベッドの支給を受けてこれを利用することを一郎に勧めたが、一郎はこれを拒否した。
当時、大阪市城東区におけるホームヘルパーの派遣状況は、別表のとおりであり、これによると、派遣を希望しながら派遣されていない待機世帯が八五件あった。原告同様、全面介助を要する高齢者で家族と同居している場合については、待機世帯が九件あり、新たに派遣された世帯三件の派遣状況は、週三回・一回二時間が一件、週二回・一回二時間が二件という状態であった。一方、前記のとおり、常勤ヘルパーが六名増員されることになっていた。村井と石川は、原告のADL、一郎の介護力、原告が訪問看護や高殿苑での入浴などのサービスを受けていること、右のようなホームヘルパーの派遣状況、配置状況を総合的に勘案し、原告に対し、週一回、食事介護のためにホームヘルパーの派遣を追加する方針にした。
(一〇) 平成七年一二月二七日、石川は阪田弁護士に電話し、「派遣回数は週三回、派遣時間が各二時間になるが、サービス内容の記載としては、排泄・清拭・洗髪は書かない。」と述べたところ、坂田弁護士は「排泄・清拭・洗髪についても明記してほしい。」旨要求した。これに対し、石川は、「検討する。」と応えたが、年内には回答をせず、平成八年一月八日に村井から阪田弁護士に石川と同趣旨の電話があった。阪田弁護士は再度「排泄・清拭・洗髪についても明記してほしい。」旨強く求め、結局、被告福祉事務所長は、平成八年一月八日付で、「食事・排泄・清拭・洗髪」をすべて介護サービスの内容とした本件変更決定をした。
2 一方、証拠(甲二、三、七、一一、一二、一六、二二ないし二六、二九、三一ないし三六、五九、七一号証、乙一二ないし一四、三四号証)及び弁論の全趣旨によると、ホームヘルプサービス事業について、次のとおり認められる。
(一) ホームヘルプサービス事業の制度化の歩みをみると、日本では、昭和三一年、長野県上田市の「家庭養護婦派遣事業」がその先駆けとなったが、これに続いて、昭和三三年、被告大阪市において、「臨時家政婦派遣制度」が発足し、翌昭和三四年には大阪市家庭奉仕員派遣制度に名称が改められた。昭和三七年には、国において、厚生省老人家庭奉仕員制度設置要綱が策定され、国庫補助が始まった。翌昭和三八年には法(老人福祉法)が制定されて老人家庭奉仕員事業として法制化された(当時の法一二条)。その後、身体障害者にも対象を拡大し、昭和四五年、大阪市家庭奉仕員派遣事業運営要綱(以下「旧要綱」という。)が制定された。昭和五七年に至り国において所得税課税世帯にも有料で派遣することに改めたのを受けて、昭和五九年に大阪市有料老人家庭奉仕員派遣事業運営要綱を制定したが、所得税の非課税世帯への無料派遣は社会福祉法人大阪市社会福祉協議会が、所得税の課税世帯への有料派遣は財団法人大阪市ホームヘルプ協会がそれぞれ業務を行うこととなった。
平成元年一二月、国においていわゆるゴールドプラン(高齢者保健福祉推進一〇か年戦略)が策定された。これは、高齢者の保健福祉の分野における公共サービスの基礎整備を進めるために、在宅福祉、施設福祉などの事業について今世紀中に実現を図るべき一〇か年の目標を掲げ、これらの事業の大幅な拡充を図ることとしたものである。ゴールドプランを実施するため、平成二年には老人福祉法等の一部を改正する法律(いわゆる福祉八法改正)により、市町村に老人保健福祉計画の策定が義務付けられた。一方、同年、被告大阪市は、独自に、平成一七年度を目標年次とする「みおつくしプラン」を策定した。平成四年四月、被告大阪市は本件要綱及び本件要領を制定し、平成五年九月には、大阪市高齢者保健福祉計画を策定した。これは、平成一一年度を目標年次として、ホームヘルプサービス事業を含む高齢者保健福祉計画を定めたもので、右の述べた老人保健福祉計画に当たるが、平成一七年度を目標年次とする「みおつくしプラン」の前期の具体的な実施計画としても位置づけられるものであった。
平成六年には、国においてゴールドプランが見直されて新ゴールドプランが策定された。被告大阪市においても、大阪市高齢者福祉計画の見直し中間報告において、ホームヘルパーの派遣回数、二四時間巡回型ホームヘルパー派遣の希望等に十分に応えることができない面もあったことを認め、平成九年五月、右計画を改訂した。なお、同年、介護保険法が成立して同法に基づく介護保険制度が誕生し、平成一二年四月一日から同法が施行されることとなった。
(二) ホームヘルパーの人的資源、派遣状況、被告大阪市の財政的努力等については、次のとおりである。
(1) 昭和六〇年当時、日本には二万一六一三人しかホームヘルパーがおらず、人口一〇万人当たりのホームヘルパー数は、スウェーデンでは約八八四人なのに対し、日本ではわずか17.9人にすぎなった。その後、日本においてもホームヘルパー数は増加し、六年後の平成三年には二倍近い四万〇九〇五人となり、本件変更申請書の提出がされた平成七年には、平成三年の二倍強に当たる九万二四八二人となった。
右平成三年に厚生省が実施した「健康・福祉関連サービス需要実態調査」によると、全国のホームヘルプサービス利用要望者数は二六三万八〇〇〇人であるのに対し、利用者数は二一万八〇〇〇人にすぎず、利用倍率は12.1倍に上った。同年二月の全国老人福祉関係主管課長会議資料によれば、寝たきり老人に対するホームヘルプサービスの実施状況は、在宅寝たきり老人数の8.8パーセントにすぎなかった。翌平成四年三月に厚生省老人福祉計画課の作成した「ホームヘルプ事業運営の手引き」によると、ホームヘルパー利用者一人当たり全国平均では、週一回、二時間から三時間のサービス提供となっていた。
ゴールドプランに伴う「老人保健福祉計画策定指針の骨子について」(平成四年六月三〇日老計第八六号厚生省大臣官房老人保健福祉部長通知)では、市町村老人福祉計画に掲げる目標年度における市町村のサービスの目標量設定に当たって参酌すべき標準として、在宅の要介護老人(寝たきり老人及び介護を必要とする痴呆性老人)に対するホームヘルパー派遣回数は週三回から六回とされた。
(2) 平成五年九月の大阪市高齢者保健福祉計画においても、右「老人保健福祉計画策定指針の骨子について」と同様、目標年次の平成一一年度におけるサービス目標水準を「ねたきり高齢者」について介護力の低い場合には週六回と設定し、必要なホームヘルパーの数についても、高齢者につき二〇七三人(障害者分の含めると二三〇〇人)と目標設定した。
右計画は平成九年五月に改訂されたことにより、平成一一年度におけるサービス目標水準は「ねたきり高齢者」につき介護力が低い場合には週七回に増え、ホームヘルパーの数は、高齢者につき二三三六人に増えた。
被告大阪市におけるホームヘルパー数は、平成七年度末において、常勤ヘルパーが七四九人、非常勤(登録)ヘルパーが九三〇人、同年度末における高齢者人口一〇〇人当たりホームヘルパー数をみると、常勤ヘルパーについては、指定都市平均が0.96人であるのに対し、被告大阪市は2.84人で、一位、非常勤ヘルパーについては、指定都市平均が7.64人であるのに対し、被告大阪市は5.24人で、八位であった。
被告大阪市における平成七年度当初予算は、一般会計が一兆九〇七五億円(対前年度増加率4.7パーセント)、特別会計が二兆五一二二億円(同3.7パーセント)であったが、同年度予算においてホームヘルパー派遣事業の拡充に当てられた金額は三七億円である。
平成七年一一月当時の城東区におけるホームヘルパー派遣状況は、既に認定したように、別表のとおりであった。
平成八年一二月に、所得税の非課税世帯に対してホームヘルパーを派遣している大阪市社会福祉協議会が調査した結果では、大阪市におけるホームヘルパー派遣時間拡大希望世帯は二三〇世帯、待機世帯は五八五世帯であった。
3 前記一の判断及び右1、2の認定事実を基に、請求原因6、7のとおり、本件変更決定が違法か否か、被告大阪市の職員の行為が違法であるかどうかについて判断する。
(一) 本件変更決定は、前記一で判示したとおり、原告の週七回・一回三時間のホームヘルパーの派遣の申請を一部拒絶した処分ではなく、むしろ、従前の週二回・一回二時間でその内容も家事の援助に限定されていた処分を、週三回・一回二時間で、その内容も身体介護をも含めるものにした原告により有利な処分と解するほかない。
また、ホームヘルパーの派遣の法律上の根拠となる法一〇条の四第一項や法施行令及び法施行規則の規定をみても、同項一号の措置は「当該六十五歳以上の者が居宅において日常生活を営むことができるよう、当該六十五歳以上の者の身体及び精神の状況並びにその置かれている環境に応じて適切な同号に規定する便宜を供与し、又は当該便宜を供与することを委託して行うものとする。」(法施行令一条の二第一項)、「法第十条の四第一項第一号に規定する厚生省令で定める便宜は、入浴、排せつ及び食事等の介護、調理、洗濯及び掃除等の家事並びに生活等に関する相談及び助言その他の身体上又は精神上の障害があって日常生活を営むのに支障がある六十五歳以上の者に必要な便宜とする。」(法施行規則一条の二)等とあるだけであって、法一〇条の四第一項所定の介護の要件及び介護の内容については、抽象的に定められているのみであって、具体的、明確な規定は見当たらない。また、養護老人ホームへの入所について定めた法一一条一項が「市町村は、必要に応じて、次の措置を採らなければならない。」と規定されているのに対し、法一〇条の四第一項は「市町村は、必要に応じて、次の措置を採ることができる。」と規定されているのみである。
そして、ホームヘルパーの派遣の要否、回数や時間、それによる介護の内容の決定は、対象者のADL、介護者の介護能力についての医療面等からの専門技術的判断を要するとともに、その派遣には費用を要し、派遣されるホームヘルパーの人的資源にも制約があることから、当該市町村及び区域におけるホームヘルパー派遣の需要及びその将来の見通し、並びに実際に派遣されているホームヘルパーの数、回数及びその内容等の諸事情を把握し、それらの総合的判断としてされるものといわざるを得ない。また、実際問題として、派遣の需要に対して派遣の供給余力が不足する場合には、少なくともその時点での判断としては、限られた財源、人的資源を派遣の希望者にどのように割り振って配分するかの問題にもなり得るのであって、このような判断は、その相当部分は、前記の諸事情を把握して対処する立場にある市町村の担当者、本件においては被告福祉事務所長の裁量に委ねられているものというべきである。
(二) 右1の認定事実によると、本件変更決定がされた平成八年一月当時、原告は、嚥下障害が進行して一回の食事に二時間以上も要するようになり、また、ベッドで寝たままの状態で過ごすことがほとんどで、痰の除去や排泄、清拭等のため、相当の労力と時間を費やす介護が必要な状態となっていたもので、一郎も、当時既に六二歳となっており、原告の介護による疲労が蓄積して慢性疲労や胃炎に悩まされる状態になっていたもので、介護のための時間的拘束も極めて長時間に及び、娯楽等の自らの生活を楽しむ時間を持つなどは論外で、極めてわずかの休息を取るための時間的、精神的余裕すらないような状態になっていたということがいえる。
しかしながら、原告は、当時、週二回・一回二時間の家事の援助のためのホームヘルパー派遣のほか、城東区医師会による週二回の訪問看護、月に二回の特別養護老人ホーム高殿苑での入浴サービスを受けていたもので、更に、一郎としては、電動ベッドや訪問入浴を利用することによる介護の負担を軽減する方法もあったものといえる。
また、城東区においては、ホームヘルパーの派遣を希望しながら派遣されていない待機世帯が八五件、特に、その中で、原告と同様に、全面介助を要する高齢者で家族と同居している場合だけを挙げても九件に上っており、被告大阪市が定めた本件要綱や本件要領に基づいたホームヘルパーの派遣の需要を前提としても、その供給が恒常的に不足する状態であった。
(三) また、本件における各証拠を検討しても、コーディネーターの石川や村井主査、又は、被告大阪市の他の職員が、原告へのホームヘルパーの派遣についての本件変更決定の判断に影響を及ぼすような重要な事実について誤認をしたことを認めるに足る証拠はない。
(四) 原告は、本件変更決定の内容は、被告大阪市が市民に約束してそれに従った内容の派遣を確保する義務を負うところの本件派遣基準に違反するとも主張する。
しかし、本件要領には「派遣の決定にあたっては、派遣対象者の心身の状況、家族等の介護・介助の程度等を十分検討したうえで、サービス内容の決定及び別表『ホームヘルパー派遣基準』(本件派遣基準)を参考にして派遣時間、回数の決定を行う。」ものとされており、本件派遣基準はあくまでも参考とされるものにすぎず、本件要綱及び本件要領においても、少なくとも本件派遣基準に従った派遣が確保されるものとされていたわけではない。そもそも、本件派遣基準は、平成五年九月策定の大阪市高齢者保健福祉計画と同一内容であるが、前認定のとおり、右計画は平成一一年度の目標水準を定めたものであるから、その三年前であって本件変更決定のされた平成八年当時(実質的には平成七年一二月当時)に、すべての派遣希望者に対して本件派遣基準どおりの派遣ができなかったとしてもやむを得なかったというべきである。
(五) 原告は、更に、ホームヘルパーが不足しているというのであれば、それは被告大阪市がその増員の努力を怠ってきたからであると主張する。
しかし、ホームヘルパーの不足については、被告大阪市においてホームヘルパーの増員を図るべき政治的責任があるのは当然であるとしても、前記の認定のとおり、被告大阪市は、厳しい財政状況の中でホームヘルパーの増員に予算を投じ、平成七年度末での人口当たりホームヘルパー数を他の政令指定都市と比較してみても、常勤ヘルパー数は平均の三倍であって一位であり、非常勤ヘルパー数については平均の七割弱にすぎないことを考え併せても、特に他の政令指定都市より劣るものとはいえないと考えられる。
また、非常勤ヘルパーを所得税の非課税世帯にも派遣するように改めることによる効果については、これを具体的に認めるべき証拠はないこと等に照らしても、被告大阪市のホームヘルパーの増員について法律上違法であると評価するほど明白かつ著しい懈怠があるとはいえない。
(六) このようにみてくると、被告福祉事務所長がした本件変更決定が、その裁量権を逸脱したり、又は濫用したりしたものとして違法であるとはいえず、むしろ、右1、2に認定した事実関係の下では、原告に対するホームヘルパーの派遣を週三回・一回二時間とした本件変更決定は、当時の被告福祉事務所長の判断としては、やむを得なかったともというべきである。
(七) 原告は、更に、本件変更決定に至るまでに村井や石川に違法な対応があったこと、本件変更決定までの調査、決定が遅すぎたことを主張する(請求原因5(四))。
しかし、前記一で判示したとおり、原告にはホームヘルパーの派遣の増加を求める申請権はないから、本件変更申請書の提出及びそれに先立つ派遣の増加を求める原告の申出は、法令に基づく申請とはいえないのであって、原告の右主張のうち、かような申請権が原告にあり、これを侵害されたことを前提とする部分はいずれも理由がない。
また、右1、2の認定事実、特に、当時の城東区におけるホームヘルパー派遣の待機者の状況等を勘案すると、本件変更申請書の提出及びそれに先立つ原告の派遣変更の申出に対する村井や石川の対応について、これをもって違法なものということはできないし、また、他に、村井や石川の当時の対応について、これを違法とすべき事情を認めるに足りない。
(八) 原告は、被告福祉事務所長には、平成五年一〇月にホームヘルパーの派遣の再開決定をした後も事情の変化に応じて派遣内容を見直す義務があるのに、同被告はこれに違反したとも主張する(請求原因6)。
確かに、ホームヘルパーの派遣事業の性質からも、財源や人的資源の適正な配分を実現するためにも、被告福祉事務所長は、被介護者の介護の必要性を定期的に調査・検討して派遣状況を見直すべき義務を負っているものと解することができる。しかし、派遣状況の見直しの方法として、高齢者サービス調整チームを活用すべきであるとする前記「在宅老人福祉対策事業の実施及び推進について」は、法規範性はないから、そのような方法をとらなかったからといって、直ちに違法となるものではないし、村井及び石川は、右1、2の認定のとり、ヘルパー巡回日誌、在宅サービス連絡表、ホームヘルパーからの口頭からの報告等により、原告及び一郎の健康状態、介護の必要性等を把握していたもので、本件変更申請書の提出がされるまで、派遣内容の拡大に向けて積極的な動きをとらなかったとしても、当時の待機者数やホームヘルパーの配置状況からみて、これもやむを得なかったものというべきである。原告の右主張のような義務違反があったとは認められない。
(九) 以上のとおり、被告福祉事務所長、村井、石川の行為が違法であったとはいえないから、その余の点について判断するまでもなく、被告大阪市に対する損害賠償の請求は理由がない。
三 結語
以上のとおりであるから、原告が被告福祉事務所長に対して本件変更決定の取消しを求める訴えはこれを却下し、原告が被告大阪市に対して損害の賠償を求める請求はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官八木良一 裁判官青木亮 裁判官谷口哲也)
別表<省略>